宿 第一部 5〜6
 俺は混乱していた。そして未だ興奮の余韻の中にいた。ゴム胴長
で風呂場に入って来て、裸の俺をゴム手袋で触りまくり、挙句の果
てに逝かせた女将・・・
 女将が言う静子という娘のこと。ゴムむすめだって?! そんな
バカな。
 ついさっき、あんなことがあったのがまだ信じられず、そのあと
まだ間も無いのに、問題のその女将が今度は部屋まで夕食を運んで
来るなんて、なんともばつが悪く居たたまれない気分だった。
(旅館気分を楽しみたいとか、面倒臭いとか言って、宿泊中ずっと
食事を部屋に持って来させていたが、こうなると素直に食堂に出向
くようにしておけばよかったと、いまさら自分のわがままを後悔し
た。食堂だったら多分今夜は飯なんて抜いてただろう。こんなとき
に顔を会わせたくはなかった)
 さっき女将が風呂場を出て行った後、しばらくして脱衣所に上が
った時、洗面台横の壁のフックに無造作に掛けてあった濡れたゴム
胴長とゴム手袋に、ギヨッとしながら感じた言い知れぬ威圧。何気
なく近寄ってゴム胴長の表面に触り、分厚いうねを摘んだりした。
 靴底を見ると24・0とあった。もしかしてこれ女将の専用? 
なんともいえないものがこみ上げてくる。
 正直、またあの女将に会うのがおっかないような気がした。
 しかし、もう、廊下を歩いてくる足音が旅館の脇に流れる川の音
とは別に聞こえてきた。
「ごめんくださーい、お夕食をお持ちしましたー」
 と言いながら廊下側のドアを開け、部屋のふすまを開く女将。
 流石に変な妄想までは当たらず、普段の服装だったが、軽く会釈
をし、料理を乗せた大きな盆を持って中に入って来る。
 顔を上げると目が合い、一瞬笑みを見せた。ただそれだけなのに
下半身の奴、にわかに反応しやがった。
 女将は黙々とお膳を拭き、料理を並べた。最後に頼んでもいない
徳利を一本添え、
「今晩はこれサービスしますに」と言う。
 俺は、このあと女将は部屋を出て俺を一人にしてくれるだろうと
思っていた。いつだってそうだし、まして今夜はお互いにああいう
ことには触れないのがマナーだろう、と勝手に考えていたのだ。
 ところが違った。改めて、ここはやっぱり無粋な田舎の旅館だ、
と思った。女将の切り出すおしゃべりに半ば呆れながら。
「吉岡さん、どうだったかいね。わたしのヌメヌメのゴォム姿は。
惚れました? ほほほ。わーたしも吉岡さん見直したよぉ、リーっ
ぱだったぁ。あんじゃあゴム止められなくなりそうだがい私も・・
・ んでん、私はあんさんのお相手じゃないっしなー、ざーねん。
私、もぉっと吉岡さんのあそこゴムんでいじくりたいがにーっ、ほ
ほ」
 飲んできたのか?
「姉さん、今夜はその話もう勘弁してくれよ。俺、今日は弱点バレ
ちまったし、これ以上いじめないでくれよ・・・」
「あんさんのお相手はー静子ちゃんだ。あん娘は良いよぉ。いやー
う私は縁結びの天才だがぃねー。あん娘と吉岡さんはすんごいカッ
プルだがい。似合いだぎ、はじめっからそう思っとったがほーんと
にピッタンコだ。あんさんが曲がっとらん真っ平らな男なら、あん
娘はゴムん吸盤みたいバチューっと、しーっか張り付きよるよ。く
っ付いたらお互い離れられんようなりますがい。よいメオトになる
ぎ」
 俺はなんとも応えられずに、ただただ飯を食っていたが、ちょっ
と考え、心を決めた。今のうちに聞く事を聞いておこうという気に
なったのだ。
 女将にぐい飲みを差し出し酒を勧める。
「姉さん、静子さんのこと、やっぱりもう少し聞かせてくれ。この
間はあんまり話らしい話もせんかったし」
「そーだよお。ちゃーんと私の言うこと聞いて、静子ちゃんのこと
まじめに考えんと、あんさんほんとに損しますが。んでなくてもい
い娘っ子で、わたしゃ自信もって紹介したんがの、まーしてあんさ
んがああいう好みなん、逃がしたら取り返しつかんことになりよる
が」
「わかってるよ。でも、前に会った時だって俺はいい娘だと思った
よ」
「無理せんで素直に言ってみなっし、ゴムん娘が好きで好きしょう
がないってぇのぉほほ」
「わかった、正直に言います。けど、秘密ですよ。おっしゃるとお
りです。姉さんには全てお見通しだ。俺はそういう趣味です。で、
静子ちゃんのことだけど・・・」
「静子ちゃんは孝行もんで、あんウチゃあん娘で持ってるようなも
んですわ。高校卒業したあとはずーと、いっしょけんめー家業に精
出しよる。あん娘が配達だけでない、売り込みでバイクどんどん動
かしてるから店はチャンと回っとる様なもんですがぃ」
 女将は静子の働きぶりに感じているようで、彼女自身静子に目を
掛けていることがその内容から伺えた。
 しかし扱っているのはゴム製品・・・
「姉さん、要するに静子さんは、ふつうなら店で売れるのをじっと
待っているような商品・・・そのう、ゴム長とかを、営業で売って
回ってるって訳? ・・・ああいうものが、そんな売り方で売れる
のかね」
「目ざとく見つけるわけだがぃ、使ってくれそうな人を。さっきの
オバケゴム長も静ちゃんに勧められたんだが。おたくは大きいお風
呂場があるんだからこれがいいって。外で水仕事してる人に手袋勧
めたり、こまめにやってるよ。こなんだも、園庭で3人で並んで洗
濯してた幼稚園の保母のおねーちゃん達にゴム手売っとった。雨が
降りよると自分でいろいろ身に付けて、宣伝と一石二鳥するんだぎ
これが。あんさん見てみよってぇ、そん時のあん娘のカッコをぉ。
や、ほーんどの看板娘だんだよ静子ちゃんは」

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